2013年12月11日水曜日

このマンガがすごい好き! 【2014年 短編単巻マンガ編】

先日「ストーリー漫画編」を書いたけど、あれだけじゃないんだああと思っていたので単巻短編漫画はこちらで。全部いいので、順位は特にないです。思いついた順。




『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』渋谷直角
サブカル残酷物語。こじらせてしまって袋小路な人々のオムニバス。表題作はもうそのままのお話で、ああなんて救いがないのかと。彼女の中だけの閉じた救いなら、山岸凉子『天人唐草』の「ぎえーーーっ!」と変わらんではないか。彼女なりに幸せならよかったよかった?閉じられた救済は読者をヒリつかせるだけで、決して救いをもたらさない。あるあるとヒリヒリ。あるヒリヒリある、ひょんげー。

しかしながら、最後のライター志望男子の話には、腐海の大海嘯でドロドロになった世界で、あれ?小さな樹が?芽吹いた?というナウシカのラストカット的な希望(のようなもの)を感じさせる結末で、サブカルは滅びぬ!何度でも蘇るさ!とも思いました。というよりも、本当に問題なのは「サブカル」ではなく、「こじらせるとロクなことはない」ということですよの。とっぴんぱらりのぷぅ。





『アラサーちゃん 無修正』峰なゆか
なゆゆは、基本的に男の人が嫌いなんじゃないだろうか…と思うほど、男性への目線が厳しい「アラサーあるある」マンガ。「あるある」つっても、作者の人間観察眼が尋常じゃないので、下心も自意識も知ったかもカマトトも自己中も、どれだけ隠そうとしても全て白日の下にさらされてしまいます。隠せ隠せ!そういうのは隠せ!なゆゆ…恐ろしい子。

暴き出すのは主に作者の分身度が高い「アラサーちゃん」なんだけど、分身度が高いがゆえにセルフつっこみも厳しい。そんな彼女を救うのは、オラオラくんとの情事でも文系くんへの思いでもなく、意外とゆるふわちゃんとの女の友情だったりする。ここに出てくる全ての「女を捨てない女」の恋は報われず、「女を捨てた女」と男は全員マイペース。つまり全員ひとり。すぐそばにあるディストピア。




『失踪日記2 アル中病棟』吾妻ひでお
前作『失踪日記』で少しだけ触れられていた、アル中病院へ放り込まれた後の話。『刑務所の中』と同じく、「普通の人は入れないしあんまり入りたくもない」施設の実録マンガは、私たちのゲスな覗き見根性を満たしてくれます。

作者のダメぶりは前作の方がビビッドに描かれていますが、こちらはこちらでスガスガしいダメっぷり。アル中は不治の病と言い、アル中の伴侶を持った側の話は西原理恵子氏が描いていますが、吾妻先生は家族のことほっとんど描かないよね。今回は前作よりは出てきたけど、ほとんど描き分けしてないというか、顔が無いに等しいの。やっぱこう、迷惑かけすぎて申し訳なさすぎてカリカチュアライズすら無理なのか、それとももっと触れてはいけない理由でもあるのか。軽いノリのマンガではあるけど、横たわっているものは重そうです。





『さんてつ』吉本浩二
サブタイトルは「日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録」。朝の連続テレビ小説『あまちゃん』に出てきた「北三陸鉄道=きたてつ」の元ネタであると言えばおわかりであろうか。あまちゃん見てなかったらお分かりではないであろうか。

東日本大震災時に稼働していたさんてつが、トンネルの中で被災した人々が、どのようにその日を越えたか、そして復旧に至る日々を丁寧な取材を通して描くルポマンガです。あまちゃんファンじゃなくても読んで損はない。








『人間仮免中』卯月妙子
元AV女優でメンタルを患って自殺未遂をブチかます作者の実録集でもある、とんでもない業深マンガ。正直絵は汚いし、内容もグロテスクだけど、読み進めるうちに一周まわって神々しくさえ思えてくる。人間の価値はそう簡単に決められるものではないわね。おこがましいとは思わんかね。

軽い筆致でサクサク描かれたようにも見えるけど、これはきっとぐるんぐるんの底なし沼からズロズロと漏れ出る作者の魂の一部なのかもしれない。ここまできちんとカタチにして、読ませてくれてありがとうと言いたいです。







『私という猫~呼び声~』イシデ電
「あーネコになりたい」なんて人は無責任に言うけれど、ホンマにネコとして生きるのはアンタが思ってる以上に大変やで…とネコ自身が教えてくれるような、野良猫ライフ本。殺伐としているようで仲間意識が強い…ようでいてやっぱり気まぐれ、なネコたちの営みが、見てきたんか!というくらいリアルにシビアに描かれています。見てきたんかというよりも、猫が乗り移った人が描いてんじゃね?むしろ猫が描いてんじゃね?最後らへんとか特に、猫降ろしの筆致。

前作『私という猫』の続編なんだけど、これだけ読んでも大丈夫。前作より野良生活のシビア度が増してるけどね…。ていうか前作絶版て!あれ名作だから復刊したらいいのに、もしくは電書化!もう!






『ぷらせぼくらぶ』奥田亜紀子
中学生の日常を描いた青く切ないお話。って書いてしまうとなんか話が早すぎて違う。もっとこう、奥が深くて、それでいて浅いような、恥ずかしいような、甘酸っぱいような、苦いような、そのような一瞬を切り取っており一話めから鼻ツン。私思うに、中学生ってもっとバカで何も考えていないはず。だから登場人物にイチイチ「えらいなーちゃんと考えてんだな」とか思ったり。これは私が「大人になってしまった」からなのか、それとも中学時代は本当に何も考えていなかったか、もしくはその両方か。あるいは「何も考えていなかったことにしているだけ」なのか。はたまた今現在も何も考えていないのか。考えたところで答えは出ませんっ!出しませんっ!

表題の「プラセボ」とは「偽薬効果」のことで、簡単に言うと「頭痛薬だよー」と小麦粉を飲ませたら頭痛が収まってしまうような「思い込み」的なこと。友情や、疎外感や、プレッシャーや、過剰な自意識は、あると思い込んでいるからあるのかもしれないし、思い込みだろうが何だろうが、今の自分にとってはそれがリアル。そして、「思い込みかもしれない」「だとしても今の自分にはそれが本物」であることに、主人公である岡ちゃんは気づいているような気がします。

遠い昔にノスタルジーを感じつつ読んでる気持ちでいたら、知らぬ間に放課後の教室に放り込まれておりました。夕方の。

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さて、最近いくつか「旧作が絶版に!」というのを発見しているのですが(『刑務所の中』は文庫化されてるけど…あんな細かいびっしり書き文字のあるマンガを文庫判型で読むのはキツいで…)、本当に「いい作品だしもっといろんな人の目に触れたらいいのに」と思う作品がそんな扱いでもったいない&悲しい。リソースはすでにあるわけだから、そういうニッチでロングテールな作品こそじゃんじゃん電書化していただきたいと思う昨今です。ほんとにもう。そして電書がたくさん普及して、もちょっと安くなればもっといいね。きっといつかそういう世界になると思っていますが、過渡期ゆえのこのもどかしさ。